大学時代、クレージーキャッツの映画にハマって、特集オールナイト上映に何度も通いました。
ちょうどクレージーキャッツの再評価によるブームが起きていた時代だったんです。
CDとなって再販された「スーダラ節」「だまって俺について来い」「遺憾に存じます」など、コミカルで痛快な名曲の数々に、カルチャーショックを受けたもんでした。
きちんと生きる、真面目に働く、という価値観しか教えてもらってない若造でしたから、そういう考えもアリ?というのが新鮮で。
「スーダラ節」の作詞は、東京都知事にもなった天才放送作家の青島幸男によるものですからね。
高度成長時代の国民が熱狂した「皮肉」とも言える「無責任でモーレツなサラリーマン像」は、当時の才能が結集して作り上げた、時代を体現するキャラクターだったんだなとわかりました。
「ハナ肇とクレージーキャッツ」は、テレビ放送の創世記に活躍した、コミックができるジャズバンドです。メンバーは、リーダーのハナ肇(はじめ)、植木等、谷啓、犬塚弘、安田伸、石橋エータロー、桜井センリ。
東宝と渡辺プロが製作した「クレージー映画」は、植木等、谷啓を主役にした喜劇映画シリーズで、1962年から1971年まで何本も作られました。
ちなみに表記は「クレイジー」でなく「クレージー」なので、検索の際は気をつけてくださいね。
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クレージー映画が作られた時代
1964年東京オリンピックの直前から、1970年大阪万博までの日本。
高度成長経済の時代と言われ、モノをたくさん作ればそれだけ売れる大量消費時代で、国民の所得もどんどんアップしていきました。
サラリーマンは、今の通勤電車とは比べものにならないほど詰め込まれた電車に乗り、タバコを吸いながら毎晩遅くまで仕事をして、帰りには一杯ひっかけて、とにかくモーレツに働いていました。
頑張れば右肩あがりで生活がよくなっていくと信じられ、国民は一億総中流とか言われていた時代です。
同じ東京オリンピック開催を前にしながら、今とはまったく違う時代。
ネットとIT化によって、業務はスピード化、複雑化し、国民は漠然とした「マス」という一塊ではなく、個々の声がSNSなどで発信される解像度の高い塊に変化しました。所得格差は開き、少子化が危機的状況となり、右肩上がりとか総中流とかは幻想となって消え去りました。
そんな時代に、あえてクレージーキャッツの映画を観てみる。
こんな時代があったんだ!きっとそう思うはず。
昭和の東京。舞台となる会社は、作品ごとに違う会社名だけど、同じセットで同じ外観。登場するキャバレーも同じ。恐ろしい勢いで製作されていたことがわかります。そして、自分の思うがままに人生をすりぬけて生きていく植木等の痛快さ!
真面目にやっててどーすんの?人の目を気にして何になるの?街に出れば、気持ちが高ぶってつい歌い出しちゃうくらいテンション高く、「そのうちなんとかなるだろう!」と怖いものなしの生き方。
リアルじゃない?そうかもしれません。
それでも、仕事に追われたり職場の人間関係で心を病んでしまった者には、自分以外のことまったく気にしないこんな生き方って憧れるかも。植木の演じるサラリーマンって、今でいうアドラー心理学の教えを体現しているんじゃない?なんて思えるのです。
クレージー映画には、植木等主演の会社もののほか、クレージーメンバー全員が登場する大作戦シリーズ、時代劇シリーズなどいくつかあります。
全体的におもしろいですよ、やたらテンションが高い作品とふつうの作品があるってだけで。
スクリーンでみると、シネマスコープ画面いっぱいにタイトル文字が現れるところから「でーかーいー!あははは」と妙にテンションあげられます。
歌を知ってれば、歌唱シークエンスには一緒に歌えます。ここでこの曲が出るのか!というちょっとした驚きもあります。
現実の話になりますが、硬直化した組織となってしまった大企業や、ブラック企業の経営って、高度経済成長の神話や、バブル経済の幻想に取り憑かれている上層部がいる可能性が高いですよね。
彼らにとって「出る杭」となる社員になるには、クレージー映画の植木のように振る舞えばいいのかもしれません。当時、それがウケたのは、実際にはできないことをやってのけるヒーローだったのだから。
おすすめクレージー映画
ニッポン無責任時代
1962年公開/会社名:太平洋酒/楽曲:スーダラ節、五万節 他
記念すべきクレージー映画第1作
日本一のホラ吹き男
1964年公開/会社名:増益電器/楽曲:ホラ吹き節、ガタガタ言うなよ(私はウソを申しません)他
日本一のゴリガン男
1966年公開/会社名:統南商事/楽曲:何が何だかわからないのよ、だまって俺について来い 他
日本一の色男
1963年公開/会社名:ローズ化粧品/楽曲:どうしてこんなにもてるんだろう、いろいろ節 他
クレージー作戦 くたばれ!無責任
1963年公開/会社名:鶴亀製菓(ハッスルコーラ)/楽曲:くたばれ!無責任、ホンダラ行進曲 他
大冒険
1965年公開/会社名:週刊トップ/楽曲:大冒険マーチ、遺憾に存じます 他
クレージーキャッツ結成十周年記念映画
クレージーの無責任清水港
1966年公開/植木等と谷啓とのコンビネーションが秀逸な時代劇/楽曲:遺憾に存じます(特別歌詞) 他
ここでは予告編だけの紹介ですけど、興味があったら観てみてくださいね。