感情と表情の研究を行なったエクマン博士によれば、人間の感情は「怒り・嫌悪・恐怖・喜び・悲しみ・驚き」基本6感情のどれかにあてはまるそうです。
あれ?これだけ?と思ったのは、僕だけではないはず。注釈として、国や文化によって違うという分析もされてます。
感情をもっとざっくり分けると、プラス系とマイナス系に分けられます。
ところでプラスでもマイナスでもない、平静でいる状態って、感情には入らないのかな。
イチローはじめ、スポーツ選手が試合前の状態としてよく言っている「平常心」ってやつです。
という疑問を持ってしまったことから、「感情」について調べましたよ。
今回は「感情」についてです。
人間の基本感情は27種類
2017年10月、カルフォルニア大学で神経科学の機械学習を学んでいる院生、アラン・S・コーエンさんが、人間の基本的な感情は27種類で構成されているという論文を発表しました。
その27種類とはーー
A: Admiration(賞賛) B: Adoration(憧れ) C: Aesthetic Appreciation(美的満足) D: Amusement(楽しみ) E: Anger(怒り) F: Anxiety(不安) G: Awe(畏怖) H: Awkwardness(気まずさ) I: Boredom(退屈) J: Calmness(落ち着き) K: Confusion(混乱) L: Craving(渇望) M: Disgust(嫌悪) N: Empathic Pain(同情) |
O: Entrancement(狂喜) P: Excitement(興奮) Q: Fear(怖れ) R: Horror(恐怖) S: Interest(興味深さ) T: Joy(喜び) U: Nostalgia(郷愁) V: Relief(安心) W: Romance(愛情) X: Sadness(悲しさ) Y: Satisfaction(満足感) Z: Sexual Desire(性的欲求) Ω: Surprise(驚き) |
ここに挙げられた感情の方が、6つのどれかと言われるよりも、腑に落ちるものがありますね。ちょっと不思議なものもありますが…(怖れと恐怖はどう違うのかな)
さらにコーエンさんの論文では、この27種類の感情がさまざまに組み合わさり、2,185の感情が存在するとされています。
コーエンさんはこの研究結果を、「Emotion Map」というビジュアルマップにして発表しました。
27の基本感情を色分けし、その組み合わせとなる2,185の感情をグラデーションで示しながら、個々の要素にナンバリングをして、マウスオーバーすると例としての映像が表示されます(PC閲覧の場合)。わかりやすい!
マップの左上にある、Q:Fear、R:Horror、M:Disrustのイメージ映像は、なかなかの恐怖シーン、驚きの瞬間が表示されて、ワクワクします(笑)
これが感情の種類についての定説ではないのですが、トピック的な意味で紹介しました。
プラス・マイナスの感情をゼロ地点に持っていく
私たちは、マイナスの感情を抱いた時、なんとかそこから脱して、プラスの感情に転じなければと思ってしまいます。
そんな時メンタルのアドバイザーは、マイナスからプラスに強引に転じようとせず、まずはゼロの地点に戻すことが大切だと言っています。
感情は、プラスとマイナスのどちらかではなく、どちらでもない中間地点があるという考え方です。
また、運転をする時のシフトチェンジを例にして、どのシフト状態にも入っていない「ニュートラル」な状態に心を持っていきましょう、という表現で伝えていることもあります。
感情が、ゼロ、ニュートラルな状態というのは、何も感じていないというよりも、ここから目的を達成するための準備状態と捉えられます。
これがアスリートのメンタルで言われる「平常心」というやつなのでしょう。
余計な雑念を取り払い、目的にだけ意識を向けることができる状態。
どんな状況にあっても平常心に気持ちをもっていけるようになるには、それなりに訓練が必要です。
そこまでの境地に至らなくても、感情がマイナスでもプラスでもないところに置く意識ができれば、感情に心が支配されたり、振り回されたりせず、穏やかでいられるはずです。
わきあがる感情を人前で晒すことなく、理性をもってコントロールすることが、大人には求められていますからね。
キレる上司の姿は、その場を圧倒するでしょうが、冷静な人からは「おとなげない」と見られている可能性があります。
まずは感情を、心をニュートラルに。
これ、お釈迦様の教えでもあります。中道ってやつです。紀元前5世紀ごろからすでにわかっていらっしゃったんですね。
(「聖おにいさん」のブッダは、感情豊かな気がしますけど)
感情は原始的な脳で作られる
感情を作り出しているのは、脳の「扁桃体(へんとうたい)」と呼ばれる部位です。
脳の中でも「原始的な脳」にあたる部分で、何かを見たり聞いたりした時、それが生存にかかわる重大なものかどうかを瞬時に評価しています。
この「評価」は瞬時に行われるので、目の前にヘビがいたら、瞬時に飛びのき「嫌悪感」という感情がこみあげてきます。大好物の食べ物があったなら、「嬉しい」という感情が湧いてきます。
ということから、感情というのは、物事を好ましいこととそうでないものに分ける機能とも言えます。
好ましい対象に対して、プラスの感情をもつ。
いろいろ考えて迷った挙句、結局好ましいほうを選んでしまう。
以前の記事で「無意識」が判断した好き嫌いが「直感」として働くということを書きましたが、まさにこのことですね。
ということは、感情をコントロールすることって、かなり難しいことなんじゃないかと思ってしまいます。「意識」をスルーした「原始的な脳」の働きですから。
ただし脳は、感情をダダ漏れ状態にせず、ある程度抑える働きも持っています。
「前頭前野」という理性や論理的思考を行う場所が、「扁桃体」の興奮をある程度抑えています。
感情が爆発したあと、冷静に考えてみれば、と思い直すことがありますが、爆発するほどの感情でなければ、冷静モードでの評価を自動でしてくれています。
それでも、怒りという感情は強いし爆発しやすく、抑えるのが難しいもの。
瞬間的な爆発でなくとも、他人から批判的なことを言われたりすると、ムカムカする気持ちが後を引きますよね。
怒りの沸点は人によって違いますが、脳が疲れていると、前頭前野の働きが悪くなることがわかっています。
疲れていると、イライラしがちなのは、そういうことなんですね。
感情をゼロに、ニュートラルにするにはどうしたらいいのでしょう。
座禅やマインドフルネスなど、前頭前野をしっかり働かせるためのトレーニングが有効とされています。
または考え方を変えることで、マイナス感情を薄めたうえで、受け入れるような認知行動療法など。
急にできるようにはなりません。本を読んだり専門家の元で練習を積まないとです。
ところで、記事を書くにあたって、いくつかの記事を参考にしましたが、感情、気持ち、心という言い方が、いっしょくたになっています。
文脈から、結局同じことだと推察をしましたが、言葉としては使い分けているので、まったくのイコールでもないように思います。
分野によって異なる、感情、気分の定義
ウィキペディアで「感情」をみると、精神医学・心理学、脳科学、生物学でそれぞれ定義が異なっています。
心理学では、進化心理学、社会心理学、感情心理学など分野によっても少しずつ異なった見方をしています。
感情って複雑だということは身をもってわかっていますが、定義も難しいんですね。
言葉の意味として、「三省堂 大辞林 第三版」では
感情:
1)喜んだり悲しんだりする、心の動き。気持ち。気分。
2)〘心〙 ある状態や対象に対する主観的な価値づけ。「美しい」「感じが悪い」など対象に関するものと、「快い」「不満だ」など主体自身に関するものがある。また、一時的なものを情動、持続的なものを気分と呼び分ける場合もある。
とあります。
やはり、感情=気持ち、気分なんですよね。
精神医学の世界では、感情と気分は区分されています。
うつ病は、「気分障害」の代表格。感情と気分が同一ならば、うつ病は感情障害とも言われるはずなのに、そうではありません。
- 「気分」は、自分の気持ちの状態を自分自身が評価した時のこと。
- 「感情」は、他人の目に映る自分の気持ちの状態のこと。
「気分」は主観で、「感情」は客観なんです。
社会心理学の世界では、感情には情動と気分があるとされています。
- 「情動」は、喜びや怒り、恐怖など強い感情のことで、持続時間は短時間。
- 「気分」は、情動よりも弱い感情で、持続時間は情動よりも長く続く。
「気分」の定義が、精神医学とは異なっています。
うつを病んでいる人が「気分障害」という言葉に戸惑ってしまうのは、精神医学上(病気としての捉え方)と社会心理学上(世の中の考え方)で違うからなんですよね。
「気分」が落ち込んで働けないとはなんだ!と言われてしまうのは、この2つの分野の考え方が違うことが表していると思います。
感情は、人間が人間らしさを示すもの。プラスの感情が豊かな人は、人間的な魅力がありますよね。
だからこそ、マイナス感情との付き合い方は、身に付けておきたい。割合からすると、プラスよりもマイナス感情に襲われる方が圧倒的に多いでしょうから。
マイナス感情に捕らわれたままだと、自分も周囲の人も心地よさから遠ざかります。
すべての感情は無理でも、できるだけゼロの地点に、ニュートラルな状態をめざしましょう。