うつ病で苦しんでいる人は多いにもかかわらず、世間一般の人にうつの症状への理解を求めるのは、まだまだ難しいのが現状です。
なってみないと分からない、としか言いようがないかもしれません。
そんななか、<うつ病の人に「頑張れ」という言葉を使ってはいけない>という知識は、一人歩きして意外と広く知られています。
なぜ「頑張って」と言ってはいけないのか。励ましたい場合、どんな言葉をかけたらいいのでしょうか。
頑張れない状態に頑張れは無理強い
うつになる人には、頑張り屋でまじめで、責任感の強い人が多いと言われています。
無理して頑張ってきた結果、エネルギーが枯渇して無気力状態のうつ病に陥ってしまったのです。気持ちのうえでは、それまで通り頑張っていきたいのに、頑張れない。そんな自分がとことん情けなくなくなる。
こういう状態の人に「頑張れ」と言うのは、酷の一言。
なかには、十分頑張ってきたのに、さらにどう頑張ればいいんだ!と絶望感を抱いてしまう人もいます。
頑張ることがどういう状態なのか分かってるけれど、頑張ることができない。
生きるエネルギーが枯渇しきって気力がなくなり、カラダを動かしたり頭を使うことが異様なまでに億劫になってしまう。少しのことをするためにも残りのエネルギーを使い切ってしまい、何もできなくなってしまう。
頑張るもなにも、普通の状態でいることが頭上はるか上にあると思うほど、深い穴に落っこちているのです。
人の心の中は見えません。どんなにうつ病の人がもがいていようと、周囲からは怠けて寝てばかりいる人としか映らないかもしれません。
プレッシャーをかけるつもりでなく、心から励ましたいと思って「頑張れ」と言ってしまいたくなる気持ちもわかります。
じゃあどうすればいいでしょう。
例え話で、「頑張れ」と言うべきでないことをイメージとして持っておくのはどうでしょう。
- スマホのバッテリー残量が10%の人に、今すぐこの動画を観て感想を聞かせて!と言う
- 犬に、猫のようにニャアと鳴いてみてと言う
つまり、無理を強いてしまうのです。
見放さず、安心を与えるように
「頑張れ」が禁句であるなら「頑張らなくていいよ」だったらOKかというと、それも避けたほうがいいんです。「頑張らなくていい」は、諦めて見放されたように感じます。
じゃあ「頑張る」関連はすべてダメかというと、そうでもありません。
うつ病の人が回復に向かって、小さなハードルを少しずつクリアしていく過程では、「頑張ったね」と褒めてあげると、励みになります。
こんな小さなことでも見守ってくれてたんだ、という安心感につながります。
スポーツの応援では「頑張れー!」と掛け声をあげますが、それだって自分の期待を相手に投げかけてるだけかもしれません。頑張ることを命令しているような感じでしょうか。
応援する人の名前を叫んだほうが、見守ってる!って伝わりやすいのかも、と考えてしまいます。
うつで心が弱ってる人に、ふつうの人にかけるのと同じ気持ちで励ましてしまうのはNGです。
頑張るための原料である気合いや精神力を発動できなくなっているのが、うつなんです。
気を楽に少しずつという気持ちで、いつも見守ってるということを伝えられたら、安心できるんじゃないかな。励ますよりも、安心を与えるってことが大切です。
うつでない人にも、頑張れを言い換えて使う
「頑張れ」っていう言葉は、自分の期待を相手に投影してしまうこと、とさきほど書きました。「頑張る」という自発的な気持ちの集中とはちがって、他人が言うと命令にもなってしまうと。
うつの人にかけるべき言葉でないのは当然として、健康な人にも迂闊に使わないほうがいいのかなと感じます。
なにより「頑張れ」は一方的な期待の押し付けです。すべては自己責任と突き放されてるようにも感じます。
たとえば試験を前にした子供に「頑張れよ」というと、いい点をとらなければいけないというプレッシャーにしかなりません。
見守る気持ちでいるなら「ベストを尽くせればいいね」と、勉強を頑張った子供に寄り添う言葉をかけたほうが、言われた側は安心感を抱きます。
- 積み上げてきた練習が自信になるよ
- 君が努力してきたことは、みんなが知ってるよ
励ますのなら、何があっても見守ってるから、という気持ちを相手に伝えたいです。
頑張れを英語で言うと
頑張れにあたる英語の表現はいろいろあります。
英語のほうがシチュエーションごとに言い方が異なって、さきほどの”言い換えて使う”の元ネタになるかと思います。
- Good luck! (うまくいくといいね!という感じ)
- Go for it! (やってみて!という感じ)
- You can do it! (君ならできるよ!という感じ)
- Take it easy! (気楽にね!という感じ)
- My best wishes! (幸運を祈ります!という感じ)
- Keep it up! (そのままその調子で!という感じ)
*日本で使ってる「Do your best!」は、〈全力を尽くして!〉というより、〈結果はどうあれ頑張って〉というニュアンスだそうです。
改めて、励ます時には相手の状態に思いを寄せて言葉を選ぶべきだなぁと思います。
急がせない、焦らせない
最後に、うつの人は症状が右肩あがりで良くなっていくわけではありません。
調子がよくなってきたと思ってても、また不調に逆戻りしてしまうことがあります。
積み上げてきたものが、だるま落としのように数段落とされることは病気の特性としてよくあります。
- 昨日はできたのに、なんでできないの?
- せっかく頑張ったのに…
などと責めたり残念がらないようにしましょう。当人が一番堪えているからです。
- 症状には波があるからね。気長にやっていこう
と安心させてください。急がせないこと、焦らせないことが重要です。
頑張れっていうのは、結果を急がせていることなのかもしれません。